「物価が上がっている」というニュースは毎月のように流れてきますが、その数字が自分の口座にどう関係するのかは、なかなか見えてきませんよね。特に企業物価指数は、スーパーの値札とも給料とも直接つながらないため、見出しだけを追うと通り過ぎてしまいがちです。

気になるのは、新NISAで積立を続けている方や、高配当株・銀行株・REITを持っている方でしょうか。仕入れコストが上がり続ける環境は、業種によって追い風と逆風がはっきり分かれます。

この記事では、2026年8月13日に日本銀行が公表した7月速報の実数値を出典付きで整理し、円ベースと契約通貨ベースの差から為替の影響を切り分けたうえで、保有資産ごとに何を点検すればよいかまで落とし込みます。

7月の企業物価指数は何を示したのでしょうか

企業物価指数 (企業と企業のあいだで取引される商品の価格動向を示す指数。消費者物価とは別の統計)の2026年7月速報が公表されました。指数は2020年平均を100とした水準で計算されています。

国内企業物価指数の実数値

国内企業物価指数は前月比+0.1%、前年比+7.2%でした。夏季電力料金調整後 (毎年7月から9月に適用される夏季電力割増料金の影響を総平均から除いて算出した指数)では前月比0.0%です(出典: 日本銀行「企業物価指数(2026年7月速報)」2026年8月13日8時50分公表)。

同じ資料の参考表によれば、6月分は訂正値で前月比+0.5%・前年比+7.3%でした。7月は前月比の伸びが+0.5%から+0.1%へ縮み、前年比も+7.3%から+7.2%へわずかに下がっています。上昇が止まったわけではなく、前月より上げ幅が小さくなった状態です。

輸出物価・輸入物価の実数値

輸出物価と輸入物価は、円に換算した値と、契約時の通貨で見た値の2種類が公表されます。7月速報の数値は次のとおりです(出典は同じ日銀公表資料。表中の▲はマイナスを示します)。

指数 7月の指数 前月比 前年比
国内企業物価指数 135.8 +0.1% +7.2%
うち夏季電力料金調整後 135.6 0.0% +7.2%
輸出物価(円ベース) 163.0 +0.1% +18.9%
輸出物価(契約通貨ベース) 123.4 ▲0.6% +10.1%
輸入物価(円ベース) 199.7 +1.3% +29.1%
輸入物価(契約通貨ベース) 143.4 +0.3% +17.7%

指数はいずれも2020年平均を100としています。輸入物価の円ベースは199.7で、2020年平均のほぼ2倍の水準です。同じ輸入品を契約通貨で見た143.4と比べると、円換算した後の負担がどれだけ重くなっているかがわかります。

参考欄に載っているドル/円の前月比は+1.1%です。資料の注記では為替相場の符号がマイナスの場合に円高を示すため、7月は前月に比べて円安方向に動いたことになります。

円ベースと契約通貨ベースの差は何を意味するのでしょうか

同じ輸入品でも、契約通貨で見た値上がりと、円に換算した後の値上がりは一致しません。契約通貨ベース (取引が実際に結ばれた通貨のまま見た価格。為替の影響を含まない)と円ベースを比べると、両者の開きが為替による影響にあたります。

為替要因の切り分け

7月の前年比で並べると、輸入物価は円ベース+29.1%に対して契約通貨ベース+17.7%です。ここで注意したいのは、円ベースの指数が契約通貨建ての価格をその月の為替相場で円に換算して作られている点です。両者は足し算ではなく掛け算の関係にあるため、単純に引き算した11.4ポイントではなく、1.291÷1.177=約1.097、つまり約+9.7% が円安による上乗せ分にあたります。輸出物価も同じ計算をすると、円ベース+18.9%と契約通貨ベース+10.1%から約+8.0%の上乗せとなります。

この関係は、同じ資料に載っている指数の水準で確かめられます。輸入物価の円ベースは1年前の154.7から199.7へ1.291倍、契約通貨ベースは121.8から143.4へ1.177倍です。1.177×1.097=1.291となり、契約通貨での値上がりに為替の上乗せを掛けると、円ベースの上昇に一致します。

どちらの要因が大きいかは、見る期間によって変わります。前年比では契約通貨ベース+17.7%が為替の約9.7%を上回り、1年前と比べた上昇は契約通貨での値上がりのほうが大きい構造です。一方の前月比は、円ベース+1.3%・契約通貨ベース+0.3%で、参考欄のドル/円 前月比+1.1%と合わせて見ると、7月単月の動きは為替による部分が大きかったことになります。

なお輸入物価の円ベース前年比は、6月の訂正値+30.1%から7月は+29.1%へ下がりました。水準は依然として高いものの、前年同月と比べた伸びは1ヶ月で1.0ポイント縮んでいます。

仕入れコストの実額イメージ

前年比+7.2%が続く環境を金額に置き換えると、規模ごとの影響がつかみやすくなります。国内企業物価の前年比をそのまま仕入れ額に当てはめた場合の単純計算は次のとおりです。

月あたりの仕入れ額 前年比+7.2%なら 年間換算
10万円 +7,200円 +86,400円
50万円 +36,000円 +432,000円
100万円 +72,000円 +864,000円

ただしこの+7.2%は全品目をまとめた総平均です。品目ごとの上昇率は大きく異なるため、実際の負担は業種や仕入れ品目によって変わります。あくまで規模感をつかむための目安として見てください。

この上昇分を販売価格に乗せられる企業と、乗せられない企業で利益への影響が分かれます。決算資料で価格転嫁について触れているかどうかは、保有銘柄を見るときの判断材料になります。物価上昇と株価の関係そのものは 企業物価指数が上昇中!物価高は株価にとって追い風?向かい風? で整理しています。

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保有資産にはどう響くのでしょうか

企業物価が高止まりする局面は、保有している資産カテゴリによって向きが変わります。銀行株では利ザヤ (貸出金利と預金金利の差から生まれる利益)が、REIT (不動産投資信託。投資家から集めた資金と借入で物件を保有し、賃料収入を分配する商品)では借入コストが論点になります。7月時点の数値をふまえて整理すると、次のような関係になります。

保有資産 企業物価の高止まりが続く局面での方向性
銀行株・保険株 物価上昇が金融政策の判断材料になる面で、利ザヤ拡大の期待が残る
高配当株(通信・インフラ) 料金改定が制度や契約に縛られる業種はコスト上昇の吸収余地が論点
REIT・不動産株 借入コストと、賃料改定でコストを転嫁できるかの両面を見る必要がある
米国株インデックス(円ベース) 円安は円換算の評価額を押し上げる一方、円高に振れると逆に働く
グロース株・無配株 金利が上がる方向の材料に対しては逆風になりやすい

金融政策との関係を見るときの注意点

企業物価は消費者物価とは別の統計で、企業間取引の価格を示すものです。日銀が政策判断で重視するのは消費者物価であり、企業物価の数字がそのまま利上げの判断につながるわけではありません。

直近では7月31日に政策金利1.0%程度の据え置きが決まり、投票は8対1でした。その経緯は 政府・日銀が為替介入 日銀は政策金利1.0%を据え置き、6月会合での1.0%への引き上げは 日銀「主な意見」公表 6月会合で政策金利1.0%への利上げ にまとめています。7月の企業物価は前月より伸びが縮んだ数字で、加速を示すものではありませんでした。

なお7月分は速報値です。同じ資料でも6月以前の複数の月に訂正値が入っており、7月分も後から改定されます。1ヶ月の数字だけで判断せず、次回公表と合わせて確認するのが安全です。

まとめ: 何を考えればよいか

  • 共通 : 国内企業物価は前年比+7.2%で高止まり。ただし前月比は+0.5%から+0.1%へ縮み、加速はしていない
  • 輸入コストの影響を受ける銘柄を持っている方 : 円ベース+29.1%は、契約通貨ベース+17.7%に為替の約9.7%が掛かった結果。前年比で伸びが大きいのは契約通貨側
  • 米国株インデックスを積立中の方 : 7月は円安方向だったため円換算では追い風。外貨建て資産の比率が高すぎないか確認する
  • 銀行株・保険株を持っている方 : 企業物価は政策判断の直接材料ではない前提で、消費者物価と会合結果を合わせて見る
  • REIT・不動産株を持っている方 : 借入コストと賃料改定によるコスト転嫁の両面を点検する
  • これから新NISAを始める方 : 月次の指数1回で設定を変える必要はなく、積立を淡々と続ける

ゆるふえとしては、物価関連のニュースは「円ベースか契約通貨ベースか」を確認してから読むことをおすすめします。理由は、同じ輸入物価でも+29.1%と+17.7%という開きが生まれ、どちらを見るかで受け取る印象が変わってしまうからです。まずは保有している資産のうち、輸入コストの影響を受けるものがどれくらいあるか、確認してみませんか?